そばとスパゲッティー
ちょっと前まで通っていた立ち食い蕎麦屋で、店主のおっちゃんとテキトウな事をよく喋ったりしていた。
格好よく言えば常連さんだったのだ。
その蕎麦屋、えらく個性的だった。
注文をするんではなくて、食券を買うタイプだったのだが、それが随分とテキトウで、『たぬき蕎麦』のボタンを押すと「わかめうどん」という食券が出てきたりする。
でもって、おっちゃんに「食券違うの出てきたんだけど」といって食券を渡すと、「いいのいいの、わかってっから」と言われるのだった。
うーん。
で、「ごめんね、おどろかしちゃって、これサービスしとくから」なんつって、たぬき蕎麦にから揚げを1個入れてくれたりしちゃうのであった。
う〜ん。
食券の印字パターンを変えるためには内蔵されたROMの内容を変える必要がある。
つまり、新しいメニューを作るたびにROMの書き換えが必要なわけだ。
いちいち費用もかかるし、最近の券売機もみんなこうなんだろうか、ユーザーの事考えてないなぁ。
これがはじめてその店でそばを食べたときの感想。
甘かった。
しばらく通っておっちゃんと話をするようになった頃、券売機について話してみた。
「不便じゃないの?」とかね。
でもやっぱりおっちゃんは「いいのいいの、いちいち(メーカーに)電話するの面倒くさいしさ」と言う。
その頃はまだおっちゃんを甘く見ていて、ケチってるか、本当に面倒くさいのか、売り上げがないのか、とか思っていた。
さらに通うようになって、券売機の巧妙な仕掛けが分かってきた。
つまり、「券売機の前で首をひねっている客=ご新規さん」であり、新規顧客開拓モードのスイッチになっている、ということだ。
おっちゃんの言うとおり、不便極まりない券売機は「それでよかった」のだ。
思えば実に巧妙なワナである。
これが、『たぬきそば→食券:T098S』とかだったらあまり不思議ではない。
「T=TanukiでS=Sobaの098番目の注文かな?」とか思ったり、あるいは気にも留めなかったりするだろう。
『たぬきそば→食券:わかめうどん』だから皆が皆疑問に思うのである。(外人すら首をひねっていたほどだ)
そして、疑問に思う人間は皆ご新規さんなのだ。
さらに言えば、あまり流行ってなさそうな外観やテキトウに見える接客など、全てにおいてコンセプトのようなものが一貫しているのである。
それはもう、客に「たぬきがわかめに化けてもしょうがないな」と思わせるのに十分なものがあった。
駅中の変に小洒落たスープ屋なんかでこの券売機を使っていたら客が来なくなるかもしれない。
逆に、この店でしっかりした券売機を使っていたら客が来なくなるかもしれなかった。
ある日、蕎麦を食べた帰りにふと思ったのである。
これは組み込み系の商売だな、と。(もっと言えば、ハード系かもしれない)
たとえば、Webアプリでこんな感じのサービスを提供したとする。
もちろん、最終的には思いどおりの結果が出力される。
だが、ユーザーはどう思うだろうか。
nanigasi.htmlの「たぬきそば」チェックボックスにチェックを入れて「Submit」ボタンをクリックすると「http://〜/tyumon.php?wakameudon」にアクセスしたりするのだ。
でもって表示はしっかりと「ご注文は『たぬきそば』でよろしいですね?」とか出たりする。
もっと言えば、たとえばネットショップがこんな感じだったらどうだろう。
あまり信用されないんじゃなかろうか。
なんというか、そのほかにも全体的に組み込みっぽい雰囲気があったのだが、言葉にしようがないので、少なくともWeb系ではないよね、くらいで止めておく。
なんとなく、白黒赤黄青の配線がグチャグチャとスパゲッティーどころじゃない事になっているマイコンの姿が目に浮かんだのだ。(あるいは、白黒写真のENIACとか)
煩雑でどうしようもなく馬鹿馬鹿しく見えるけれども、愛嬌があって、とてもタフな感じがする。
//最近の組み込みは緑一色のキレイな基板の上で、また少し違った世界になっている。
//組み込みというのもちょっと不適切かな、とか、今思った。